来 歴


旗をおろす


使いふるされて
空に震えているだけの旗を
もう今はおろしてやるがいい

自分の手で引き裂けば
どんなにか心が休まるだろうに
あれは風に引き裂かれるまで
緊張に身をまかせていた
ぼろぼろになってからは
場ちがいな批判まで
まともには受けとめかねて
不器用によろめいてばかりいた
みじめなすすり泣きや
けたたましい悲鳴を
いつまでも鳴らし続けてきた

早くおろしてやるがいい
あんなに色あせた良心を
あんなに空高く
さらしておくわけには行かないのだ
鮮烈な色彩は
すでに曇天の空にかき消えた
そのあとで
屈辱にまみれた沈黙が
あれを占領しつくしてしまった

今はあれが何のあかしだと言えるだろう
意味のない記号が
形も定かでないうすっぺらな布きれが
いよいよ無視されるために
雲もない空をたたいている

早くおろしてやるがいい
あれのために
わずかに残されているのは
あれの引退にふさわしい
ぶざまな儀式の執行だけだから
あれをあんな空の高みへ
引きずりあげたのはだれなのか
その同じ手で
使いふるされて
空に震えているだけの旗を
早く引きずりおろしてやるがいい

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