来 歴


星を撃つ


あたふたと
夜がやってくる前に
かねて用意の幕を引いてしまう
一日は終り
一日はまだ始まらない
その壮大な引き算の中から
かっこに囲まれた
黒い空が落ちてくる
星をばらまいた
まぶしい脳髄をめがけて
華麗なくらやみが氾濫する
星の座標を求めようとして
鏡にゆらめく世界の裏側へ
顔をあげて歩き出す
歩き出すわたしを
はがいじめにくる
鋼鉄の腕からも逃れて
星を撃ちに行くところだ

さあわたしは
ねらい撃ちの銃口をつきつける
狂気の星に
にぎやかなのど笛に
解放だと信じて殺し続ける
残酷な良心にねらいをつける
怠惰な星に
眠りこけている天の節穴に
創造だと称して
とほうもない砂漠を生産している
愚直な人間の知恵に
かびだらけの星に
蔓延する流行のバクテリアに
うすっぺらな星に
プラスチックの文明にねらいをつけてやる
黄金を王冠を
剣を
旗を歌を
たんねんにうち消して行く
高すぎる鼻を
まがった背骨をうちぬいても
どんな血も流れない
のぞきめがねのレンズが
こなごなにくだけて
天のここかしこに散らばっているだけで

いつのまにか
しらじらと
星の死にがらがはりついている
夜明けの空を引きあけて
外へ出て行くけはいがする
太鼓を叩いている強い腕
床を踏み鳴らしているはだしの足
大いなるものの影は
遠い枯草を過ぎてついの海に至る
その蒼ざめた顔は
ここからはどうしても見えない

起きぬけのまなこを
すずやかに見ひらいて
かっこに囲まれない
新しい空を受けとめようと
身がまえているのに
空を引き裂いて行く声だけがする
そうだ
確かに無数の叫びが空をきり
天の高みに呑まれたあとだ
はるかに大きな新しい問いに
わたし自身
所有されているのに気がつくのは

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