来 歴

不吉な物語の夜


はね橋の向こうには
ことばの果実が金色に熟れて
にぎやかな祭りの唄が
ここかしこに渦まいているのに
こちら側の空は塗りこめられた闇
寡黙な星が不意に降りてきて
私の不覚な夢を痛烈に突き通すのだ
おおかたのきらきらするものが
まっさかさまに落ちこんで
私の胸の野井戸の底には
星の白い死にがらがいっぱいだ
鏡を無視した化粧
発芽のためではない腐乱
目的地に背を向けた浮遊
清潔な潮のにおいとは
すっかり別のもので満たされている
出口なしの水の底に身をかがめて
こみあげてくるかすかなつぶやきを
なだめながらのみこんでいるのは私だ
盲の石組みを伝って
よじのぼるには遠すぎる空が
井戸のさしわたしの分だけ落ちてくる
両手の中の安楽な空よ
おまえが落ちてくる分を
そのままそっくりお返しだ
おまえが何度となく落ちてくれば
私だって何度となく
はるかな空に向かって身を投げてやる
親密な瞞着に
身も心もうっとり疲れきるまで
無限の高みにとび上がったり
暗い底深くとびこんだり
そのたびに
何色でもない星のラベルを
両方の顔にしっかりはりつけてやる
いいとか悪いとか
きれいとかきたないとか
なじみの価値のはいりこむ
どんな余裕も見えなくなるまで

はね橋をおろして
野井戸の夜と金色の狂気の間を
汗まみれの駆け足で往復する
遠い唄が火のついた稲束のように
高い糸杉の上ではぜている
申し分のない静寂が
隣り合わせに横たわっている
必死の足が
私の不覚な夢を痛烈に蹴とばすので
眠らない眠らないと
呪文のようにくりかえす悲鳴が
私の不眠を今夜も引き裂きにくるのだ

日日変幻 目次