来 歴


ことば


甘く熟れて
かんばしい蜜のにおいを
ふんだんにまき散らしていたのが
はや あそこの枝ここの茂みで
生きたまま腐りはじめている
作法どおりの
折り目正しい優しさで
朝の挨拶をくり返しているうちに
がんじがらめの縄が
容赦なく皮膚にくいこんでくる

私のことばは
空に噴き上げる多彩な虹でなく
開ききった大輪の花でもなく
めしいた恍惚ですらなく
いっさいの充足とは無縁である

そうだ 私のことばは胆汁より苦い
濾過紙に残った茶色の粘液である
わずかに通過して行ったものは
何の形でもないしみになって
皮の木目をよごしている
胸の中身がすきとおるまで
濾して滓をとる
とった滓は捨てる
滓のほかには何も残らない
そんなに空しいいとなみである

そうだ 私のことばは茨の棘より痛い
胸の深みへ下りて行く鉤針である
眠りこけている怠惰な良心が
激しい声をあげるまで
いちばん暗い部分を探りに行く
そうだ 私が探りあてるのは
いつも手負いのことばだ
無残に引き裂かれたことばの
血まみれなひとかけらだ
みるみるこぼれ落ちてあとかたもない

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