来 歴

男と女  

あなたはレンズ
ミクロの世界から
遠くは何億光年の
時間と距離まで測ってしまう
また前方の論理を追いかけて
疾走し続けるドライビングランプだ
わたしは鏡
屈折した心も
ちょっとした軽蔑のことばじりも
ただそれだけにしか映さない
わたしは同じ節まわしで
あやし続ける古風な子守唄だ

あなたは直線
するどい錐
大地をめがけて急降下する
血走った眼 とがったくちばし
わたしは輪
ゆるやかな波のうねり
痛みもなく剥がれて行く
けだるい記憶 古いかさぶた

あなたは噛みくだく白い歯
夏の夜空を焼きつくす花火
わたしはしなやかなまるい肩
からみつくえびかずらの蔓
あなたはえものをとりに走る
バネのきいた足
背中の毛を逆立てて駆けて行く
やせた黒い犬 乾いた唇
わたしはみごとに結実した
黄色い種子
たねまきからとり入れまでの
とめどない汗
唾液にまみれた微笑
あなたは
はるかな標的へ身を乗り出し
わたしは
庭の周囲へ縄をはりめぐらす
あなたは通過する行列
わたしは落ち込む空洞
あなたは男
わたしは女

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