来 歴

素顔の海


ああ 塗り絵のような
うすっぺらな嘘はやめる
遠い松原や飛びかう?など
無用な装飾は剥ぎとることにする
ああ いぎたなく
寝そべっている海
うすよごれたウルトラマリーン
また 海はいびつな揺りかご
からだごとくるまれて
震えている波も
ききわけもなく
首をよじって
いやいやをしている波も
やがては夢の向こうへ引いてしまう
また 海は腐りかけた胃袋
きりもなく吐き出される
へんなにおいの水が
泡にまみれた
同じ水の上を
しらじらしい顔つきで
行ったり来たりしている

また 海は忠実な埋葬人
貝のぬけがらや
瀕死のさかなや
すきとおった骨が
悪あがきをやめるまで
暗い波のまにまに
寄り添って淀んでいる

ああ 歯の浮くような
見えすいたお世辞はやめる
近視の眼鏡もかけずに
あいまいな遠景をほめないことにする
ああ 口うるさく
言いつのる海
にごりきった潮騒

日日変幻 目次