来 歴

悪い夢の中の子守唄


問いだけあって
答えのないくらやみがやってくる
急いで鉄のとびらをしめに行く
向こうの世界はまだ燃えているのに
壁の風景画は
空の端のほうから欠けてくるのだ

鏡の中を横ぎる白いヘッドライト
哀れないけにえを目がけて
つきささる矢のような殺意
あれもこれもと叫び続ける
必死の呪文をふさごうとして
なおも大きなくらやみが
腕をひろげて走ってくる
ひやりとまぶたをかすめる空気
きらりと光る予感
けだるい裸身が
思わずベッドからずり落ちる
まぶたの裏側の
血走った海面の上を
次の水平線めがけて疾走する
あれは無残な夜の脳みそだ
血だらけの波をかきわけて
はいあがろうとする
あれは眠れない私の臓物だ

もう少しもう少しと
かすかな声だけ聞こえてくる
なまぐさい潮が引いたあと
もっと大きなくらやみが寄せてきて
鏡の中で開き始めた夢を
空の高みへたたきつけている

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